私の中の図書館〜ライブラリー〜

読んだ本の内容をすぐに忘れてしまうので、ストーリーや読んで感じたことを書き留めたいと思います。

杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」(2009)


もう随分も前になるが新刊コーナーで見かけて…
読みたいと思いながら、ずっと読めずにいた。
これが今から約8年前に書かれてあるとすると、日本の虐待臨床にとってはかなり新しい見地だったはずだ。悲しいことに、内容は今でも新しい。
子どもの臨床に携わる人は、マストバイな1冊。
杉山先生の人柄が伝わってくるかのようで、内容もわかりやすく理解しやすい。
 
普段は、発達障害の臨床に身を置いているが、家庭環境なのか、発達の問題なのかアセスメントの難しい子が沢山いる。
この著に書かれているほどの激しい虐待による影響を受けた子は、児童相談所に勤務していた頃以来、とんと見ていない。
 
M1の頃(今から約10年前)、西澤哲先生が言っていた。
今の日本の虐待臨床は、アメリカの20年前だと。
根本的な解決を見ないまま、これからもっともっと莫大に被虐待は増え続けると。
まさにそうなった。
 
杉山先生の指摘するように、被虐待の子のケアについて我が国では十分な体制が取れているとはいえない。
日本では、被虐待児や家族のケアや予防についてのシステムが十分に確立されていないのだ。
 
児童相談所も自治体によって差があり、いわゆる医師と様々な専門職との連携がうまく図られているところは非常に少ない。現に、児童相談所は、虐待を発見した際に親との分離には強力に介入し、積極的に子どもに関与するが、家庭復帰もしくは施設入所となると子どもとの接点はほぼ無くなるのである。
親担当のワーカーは、福祉を学んできたケースワーカーばかりではなく、単なる事務職が転勤によってワーカーをやっていることもある。子面接よりも親面接の方が大変な中、面接技術の指導やスーパーヴィジョン体制もなく親への治療的アプローチが出来ているとは言えない。先進的な場所では、親面接を臨床心理士が行う場合もあるようだ。
大事なのは、虐待を発見して親と分離させることではない。発見したとしたら、その後のケアや再統合をどうしていくかについて策を練らなくてはならない。
 
この悲惨な現状というか、明るい展望を抱けなかった点が、私が児童相談所の臨床から離れることになった大きな要因であったことを思い出した。
しかし、そんな無責任なことを言っている場合ではない。今後、関わることが必ずあるのだから。
 
この本から得た新たな見地
●反応性愛着障害について
抑制型RAD…生後まもなく極端なネグレクトの状態に置かれると抑制型の臨床像をたどることが多い
脱抑制型RAD…ネグレクトに加え、身体的な虐待、養育者が一定しないなどの愛着の形成が部分的な成立のみの状態に置かれた子どもは脱抑制型をたどることが多い
 
●高機能広汎性発達障害と反応性愛着障害の鑑別点
・一般的な家庭環境では、反応性愛着障害抑制型は生じない
・治療を行いながらフォローアップすれば鑑別が可能
・反応性愛着障害は抑制型から脱抑制型へと変化する
・対人的ひねくれ行動など、対人関係のもち方は反応性愛着障害のほうがより敏感さを示す
 
●虐待によって生じる解離性障害
・虐待が脳に及ぼす影響が、様々な研究により明らかになってきている。
脳梁→解離症状
海馬、(偏桃体)→PTSD、(BPD
前頭前野→実行機能の障害
前帯状回→注意の障害 
上側頭回、眼窩前頭皮質、偏桃体→社会性・コミュニケーションの障害
 
 
解離性同一性障害と複雑性PTSD…子ども虐待の終着駅
・多重人格が明確に認められない場合でも、スイッチングと呼ばれる人格モードの切り替わりが認められる被虐待児は多い。-部分人格(パーツ)の存在
・複雑性PTSDDESNOSとも呼ぶ)…子ども虐待のように、長年にわたり、繰り返し強烈な心的外傷を受け続けた結果生じてくる精神障害。最も一般的に見られるのが、感情コントロールの混乱。感情の極度の押し殺しと同時に、突発的なかんしゃくの噴出が見られる。それぞれが別々の人格で遂行される場合も少なくない。次に、意識の不連続が常に存在する状況となり、多重人格の形をとることが多い。
 
●治療について
・いわゆる、一般的な精神療法、力動的精神療法のみでは解決に至らない。
薬物療法の積極的な導入。
・安心して生活できる場の確保→愛着の形成とその援助→子どもの生活・学習支援→心理療法(認知行動療法;トラウマ、フラッシュバックへの対応と解離に対する治療)が必要。

読み終わって、
発達の問題と神経症圏、精神障害圏と重なり合う部分がかなり多いことを知る。

発達のことだけの見地ではやはり限界があると痛感。
視野を広げたい。